長井 彬著 千利休 殺意の器(読書感想文)

大陸ノベルズ「千利休 殺意の器表紙

茶の湯で有名な井戸茶碗。「筒井筒」といえば、桃山期から一国一城にも匹敵する大名道具として珍重されてきた。インタビュー先で、この名物茶碗にまつわる逸話を耳にしたジャーナリスト「私」は、利休と太閤秀吉との茶碗をめぐる因縁にとりわけ興味を抱き、自ら調べ始める。『殺されてやろう。殺した方は負けがこむばかりだ』。利休の捨て台詞が物語る切腹劇の真相とは? 歴史の闇に埋もれた謎を名陶の妖美が解く異色ミステリーの世界(大陸ノベルズ扉より) 



この秋、手に取った本の中から、改めて興味を感じたモノをご紹介…題名からも分かるように、茶道における『名物』と言われるお道具の変遷の歴史を、著者の創作による現代エピソードを綴った作品。残念ながら、この作品は既に絶版されていまして、うたの本棚から引っ張り出したモノで、1989年初版とあるので、四半世紀前の作品ですね。

この当時は、歴史は好きだけど、さほど茶道の道具類については興味関心が薄かったらしく、ほとんど内容を覚えていませんでした(A^^;) 真面目に稽古に通うようになって、ようやく、多少は道具の善し悪しや、書付類への知識が若干増えた今、『名物』の由来などにも興味が湧いてきた、という感じなので、茶道具に興味の無い方にとっては、さほど面白いミステリーと言えない作品かもしれません。

本書に登場する茶碗や茶入は、いずれも国宝や重要文化財といった、一般の方でも聞いたことあるかもな?と思う程の逸品で、この本の面白さは、その道具の来歴の不可思議さに注目した点でしょうか…西洋でも血塗られた伝説を持つ宝石が多いのと同じですね☆

本書は5篇に分かれているのですが、中でも、作家の創作部分と合わせて面白かったのは「ぬくもりの跡」と題された作品。この作品は、手先が器用な友人が、『名物』の古い箱に、その箱書きのモノに真似た自作の茶入を収めるイタズラをしたまま亡くなり、彼の作品を形見として欲しい愛人が、金目になれば売ってしまいたい妻の家から盗む筋書きで、その合間に、この名物の茶入の数奇な変遷を絡めたものです。

国宝であれ、重要文化財であれ、価値の分かる人からすれば、喉から手が出るほど執着したいモノがあっても、その美しさや年月を経た味わいを、ガラクタとしか思えない人も居る、というようなモノが骨董品だと、うたは思っています。この「ぬくもりの跡」は、相続で「価値が高い=高く売れる」と考える人が居る一方で、なんら価値の無い素人の作品でも、その人にとっての想い出のヨスガ(緣)として大切にしたいと思う人が居る…どちらが道具にとって幸せなんだろうと考えざるを得ませんでした☆

特に茶道の真髄「侘び寂び」に通じる唐物(中国・朝鮮からの由来物)である井戸茶碗は、朝鮮では飯茶碗だったりした日用品だったと言われていますが、昔から「一 井戸、二 楽(らく)、三 唐津」と呼ぶように茶碗としての格が高いとされていて、現存する物が大変少なく、希少価値です。本書では、国宝『喜左衛門』と『筒井筒』の曰く因縁が語られています。表題作は重要文化財である『筒井筒』ですが、この茶碗を見て美しい、と思える人は茶人と言えるかもしれません(^^;

左上「筒井筒」 右上「喜左衛門」 左下「葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱」 下中「安国寺肩衝」 右下「肩衝 初花」

改めて、後世に残る逸品のお道具は、いずれも数奇な運命を辿って、現在に残されているものばかりで、その時代、時代の茶人の執念を感じる作品となりました。

で、本書に登場する大名物の茶道具類を、名前だけは知っていた井戸茶碗の「喜左衛門」など、Googleの画像で検索してみました。現物は、きっと素晴らしい物なんだろうと思うのですが(なにせ、国宝だったり重文なのですから)写真だけ見ると、これが?と思いたくなるようなものもあります(苦笑) どうやら、まだまだ、うたは修行が足らないようです(A^^;)



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QED鬼の城伝説の舞台を訪ねて(読書感想文)

高田崇史著『鬼の城伝説』講談社文庫表紙 桃太郎の鬼退治は、曇りなき善行だったのか? 岡山・吉備津神社に今も伝わる鳴釜神事では、大和朝廷によって退治された鬼神「温羅」が、釜を唸らせて吉凶を告げるという。一方、桑原崇は、旅の途中、鳴ると凶 ― 主が死ぬという大釜に遭遇。事実、土蔵に長男の生首が。事件の核心“桃太郎伝説”の騙りとは?(高田崇史著・講談社文庫より)

昨年の秋に、失業が決まった翌日、退職記念に購入したコンパクト一眼で初めて撮影した写真なので、少し古いネタですが、最近は、お出かけもしていないので、せっかく撮影したのに、お蔵入りも残念…ということで、お付き合い下さいませ☆ 

高田氏のQEDシリーズは、歴史好きな、うたが好きなシリーズ推理小説で「百人一首の呪」から数えて7作目となる作品です。とはいえ、いい加減に後先に読了してまして、この作品を読み終える前に、後の発表作品を読んでいたりします。

史跡としては有名なので知っていたのですが、なかなか、わざわざ行く気にならなかった
総社市にある鬼ノ城に写真を撮りに行こう、と思った動機は、この作品を読んだからです(A^^;)

復元された西門です

桃太郎のお話は、岡山県人ならずとも、誰もが知っている御伽噺ですが、これが高田氏の手にかかると、
まるっきり、あらすじが異なってしまいます…氏の一貫した歴史観は「歴史は勝者の改ざんである」というもの。

本作品も、そういう視点から書かれたもので、小説内の殺人事件の謎解きも、まぁ、面白いのですが、
桃太郎のモデルとされる吉備津彦命が、大和朝廷の命令で、製鉄と豊かな土地であった吉備王朝の
乗っ取りを企て、それに対抗した吉備王朝の首領である温羅との攻防が、桃太郎伝説だ、というもの。

屏風折の石垣を臨む

鬼ノ城は、まだ発掘半ばなので、これぞ定説というのはありませんが、白村江の戦い(西暦663年)で
敗れた大和朝廷が、先進技術であった朝鮮の山城を手本に、防御の砦として築いたという説が有力です。

とは言うものの、それ以前、地の利を考えれば、平定前の吉備王朝の拠点だった可能性も高く、
その裏づけとして、岡山市一宮から総社に至る街道沿いには、桃太郎伝説に因む神社などが点在しています。
本書でも、その辺りの時代変遷の説明は、なかなか説得力があって、「なるほど~!」と思っちゃいます☆

「温羅舊(旧)跡 」と刻まれた石碑


史跡「鬼ノ城」一帯は、ぐるっと巡るウォーキング・コースが整備されていて、本格的な健脚コースから、
うたが行った、城壁ぐるっとコースなどがあって、西門まではバリアフリーで登れます。
ハイヒールでは無理ですが、スニーカー程度でも充分にお散歩可能です(*^^*)v

西門から、建物礎石群、屏風折砦跡、北門に至る途中に「温羅舊跡」と刻まれた石碑がありました。
実際に温羅の軍が、この山城に居たか、どうかは解りませんが、戦前は「鬼が島」と想定してたみたいですね(^^;

屏風折城壁から吉備平野、瀬戸内海方面を望む

「山や湖や海を見渡せる場所っていうのは、何ヵ所も行ったことがあるけれど、
一つの大きな市街を完全に見渡せる場所というのは初めて」と本書のヒロインに述べさせているとおり、
たかが標高400mほどですが、お天気が良い日には児島湾まで見えるそうです(*^^*)

大和朝廷の時代ならば、多分、今より海岸線も近かったらしく、吉備津も、どうやら港だったらしいので、
その当時ならば、集落はむろん、瀬戸内海を行き来する船なども間近に見張ることが可能だったでしょう。

そうそう!桃太郎のお供である猿・雉・犬についても、面白い見解を述べていらっしゃいます。
このシリーズの面白さは、むしろ、歴史的な神社の来歴や、御伽噺の新解釈にあります。

素直に納得できる部分もあれば、そうかなぁ、そうかもなぁ、と思う部分もありますが、
地元に住んでいて、歴史の授業で教えてもらったことを鵜呑みしていた、うたとしては、
ちょっとした「目からウロコ」的な解釈でした(A^^;)


  ※史跡「鬼ノ城」については、こちらのサイトをご参照ください
    ☆岡山県古代吉備文化財センター公式サイト http://www.pref.okayama.jp/kyoiku/kodai/kinojou-top.html
    ☆鬼ノ城ウォーキング http://park.geocities.jp/aenzic/




利休にたずねよ (映画・読書感想ネタバレ)

山本兼一著:PHP文芸文庫 表紙女のものと思われる緑釉の香合を肌身離さず持つ男・千利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、天下一の茶頭へと昇り詰めていく。しかし、その鋭さゆえに秀吉に疎まれ、切腹を命ぜられる。利休の研ぎ澄まされた感性、艶やかで気迫に満ちた人生を生み出した恋とは、どのようなものだったのか。思いがけない手法で利休伝説のベールが剥がされていく長編歴史小説。第140回直木賞受賞作(PHP文芸文庫より)

少し前に読了したので、少々、記憶が曖昧なところもあります(^^; ですが、映画の方は、今日、鑑賞してまいりましたので、その感想などを綴ってみようと思います。

まず、初っ端からネタバレとなってしまいますが、本の方は、この手の歴史伝記モノとしては、事象の時系列を逆に辿るという極めて稀な進行を取る作品となっております。これは、映画も、切腹シーンから始まるので同じ仕組みです。

千家流始祖となる千利休が、茶道において「侘び寂び」を集大成した人物で、信長・秀吉に仕えたことや、
大徳寺塑像の件で、町民でありながら、武士同様に切腹を命ぜられたことは謎ともされてますが、
日本史の教科書でも教えてくれる内容だし、これまで、大河ドラマなどでも、度々、登場している人物なので
おおまかな生涯は、皆様、既にご存知のことも多いと思います。

市川海老増蔵・中谷美紀主演 映画「利休にたずねよ」公式サイト トップ画像

実際に、千利休が本作品に登場する緑釉の香合に執着したのかは、寡聞にして存じませんが、
もしかすると、これは作家の創作かもしれません。

千利休の茶に対する姿勢や、詫び寂び茶の原点を語る上で、何故、彼が、一期一会に拘ったか等についても、
緑釉の香合は、作家的想像の小道具・作品の象徴なんじゃなかろうか、と疑ってる、うたです。
だとしても、それが史実であろうと無かろうと、全く不自然さもなく、香合への思い入れが、
一人の女性への思いと重ね合わせて熱く、でも淡々と語られるクダリには、ぐいぐいと引き込まれます♪

香合は、茶道具の中では、掛け軸と共に格が高く、懐に忍ばせておくには、丁度良い品だった、
ということもあるかもしれませんね(A^^;)

映画作品では、本書で描かれるエピソードの全てを取り込む訳にはいかないのと、
多少、遡り方が異なりますし、登場人物の描き方が、利休と妻である宗恩を除くと、
若干、弱い部分が見受けられました…特に、秀吉は、随分とお手柔らかな描き方だな、と(^^;
原作では、秀吉との確執が、随分と秀吉という人物のアクの強さが目立ったもので(笑)

裏千家流 茶室「今日庵」の露地 映画サイトから拝借してきました

豪華な出演者にもかかわらず、映画作品の出来映えとしては、もう一つかなぁ、と思う部分もありますが、
現存する茶室や庭、三千家所蔵の国宝級の名器を始め個人蔵の名物などは、さすが!と唸ってしまいます☆
もうちょっと、ゆっくりカメラを回して、じっくり見せてくれれば良いのに、なんて思います(A^^;)

裏千家さんの今日庵の露地も、うたは訪れたことが無いのですが、静謐で凜とした佇まいは、
写真などで見てはいても、大画面で、移ろう陽射しの影の美しさには溜息がでました♪

後、着物には着慣れているとはいえ、市川海老蔵さんの所作は、手先まで美しく、
実際の茶を点てる映像は、同年輩のお家元のお弟子さんの方々でしょうが、やはり、とても美しく、
う~ん…日頃、いかにガサツに茶を点てているか、と猛反省してまいりました(苦笑)

映画は映像美として、茶室において自然光に近い形の撮影も含め、原作では味わえない良さがありますが、
面白さ、という点に絞ると、やはり緻密に構成される原作を読まれることをお勧めしておきます☆

最後に、本の解説を書かれた宮部みゆき氏が、何を利休にたずねよ、と言っているのか、
氏は「あなたが本当に愛していたのは宗恩(妻)ですよね?」と聞きたいと言われてます。

それは、受け手側によって異なると思いますが、うた的には、
「利休さん、あなたにとって茶の湯とは何ですか?」と問いたいですね(^^;

政治や時勢に翻弄されながら追い続けた詫び寂びの美、それだけが茶の湯なのでしょうか、と。

 ※ 詳細な映画情報や、名器の映像等は、こちらを参照なさって下さい。
    映画「利休にたずねよ」公式サイト http://www.rikyu-movie.jp/



百田尚樹著「モンスター」

幻冬舎文庫・百田尚樹「モンスター」表紙 【あらすじ】田舎町で瀟洒なレストランを経営する絶世の美女・美帆。彼女の顔はかつて畸形的なまで醜かった。周囲からバケモノ扱いされる悲惨な日々。思い悩んだ末にある事件を起こし、町を追われた美帆は、整形手術に目覚め、莫大な金額をかけ完璧な美人に変身を遂げる。そのとき亡霊のように甦ってきたは、ひとりの男への、狂おしいまでの情念だった-。(幻冬舎文庫より)

昨年の春に文庫本化され、女優の高岡早紀さんをヒロイン役に映画化もされた、百田尚樹氏のベストセラー。男性著者の作品と思えないほど、美貌に恵まれなかった女性の心の動きの描写の細やかさ(或いは、恐ろしさ、と言うべきか^^;)この作品がベストセラーとなったのも、大部分の女性が感じている美人への「えこひいき」を痛快に抉り出したからではないかな?と、うた的には感じます。


うた自身も、ヒロイン・和子(美帆)ほどではないものの、子供の頃から「可愛い」とか「綺麗ね」
とかいう、女の子の貰う褒め言葉とは、ほとんど無縁?に成長しちゃいました(^^;
何しろ、実の父親でさえ、年頃の娘をつかまえて「お母さんの方が、もうちょっと綺麗だった」と
言う有様ですから、一体、誰に似たと思ってんの!と、苦笑したこともあります(笑)

小さな頃は、それでも大人になると、子供の時に可愛くなくても綺麗になる子は多い、という神話を
ヒロイン同様、信じていましたが、年頃になると、全員が、そうはならないことも知りましたねぇ(苦笑)

あれは、本人の努力というか、化粧栄えする顔立ちというのが有るからだと、今では思ってます。
若い頃には、それでも、お化粧に身をやつしたりもしましたが、いかんせん、化粧栄えしない顔立ちで、
ま、それでも長年付き合ってくれば、こんなもんだ、と納得する程度の不細工さ、なのでしょう(A^^;)

加えて、うたは声も、低くハスキーで悪声でして、よく言えば「個性的な声の持ち主」らしく、
電話などでも、他の人と間違えられることは、まず、ありません(A^^;)
顔はさておき、せめて声だけでも可愛く生まれつきたかった、と思ったことは何度もあります。

この作品のヒロイン・和子は、肌理細やかな白い肌と恵まれたスタイル、ソプラノの美しい声を持ってまして、
美容整形で手に入れた美貌を輝かせる武器を生まれながらにして持ってます。
彼女が整形するたびに、どんどんと女としての武器を実感していくクダリは読み応えが有ります☆
中村うさぎの解説にあるとおり、ある種、女の出世物語とも言える部分です。

ヒロイン同様、新卒の就職活動の折、成績は悪くても一流企業に就職する美人の友達が、
うたの周りにも居まして「世の中、美人は幸せの半分を元から手に入れている」ということにも同感。

学生時代、合コンなどに誘われても、いつも「壁の花」だった経験も、ヒロインと同じです。
美人の娘の方が、性格も明るく素直で優しい、という本文の説明も説得力ある事実でしょう。
「天は人に二物を与えず」という諺がありますが、いやいや、どうして…二つどころか、
三つも、四つも持っている人が居ることは、大人からすれば自明の理です。

ま、それでも美容整形をしようと思ったことが無いのは、うたが、ヒロインほどには不細工でもなく、
美貌というものに多大な期待もなければ、そうなりたい、という欲が無かったからでしょうね(^^;
確かに、美人じゃないから損したなぁ、と思うことは、多々、有りましたが(笑)

ヒロイン・和子ほどの努力もしなかったから当然ですが、ここまで出来る女性も少ないからこそ、
フィクションとして真実味がある作品で、ラストを「報われた」と感じ取る女性読者も多いことでしょう。
ヒロインの壮絶な生き様は、反対に、世の男性陣にとっては、女の恐ろしさ、
可愛い顔して、女の子って、こんな風に考えているのかな?と感じた部分も多いのではないでしょうか(笑)

男性作家だからこそ描ききれた、女性の心の暗部かもしれませんね☆


プロフィール

うたかたの幻

Author:うたかたの幻
3年ぶりに更新を始めました!気分転換で、お出かけした写真エッセイのほか、読了した本についての感想、鑑賞した映画などなど、諸々思いついたままに綴っています。

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